普段利用しているポイントサイトをどんな企業が運営しているのか、気になったことはありませんか? 会社概要や沿革を読むだけでは分からないことも多いはず。そこで、JIPCに加盟している企業を順次訪問、ポイントサービス事業を統括する責任者にスポットを当てながら、他社にない取り組みや強み、社風など、企業の素顔の一端を照らし出してみました。
東京・千代田区麹町に本社を構える株式会社ネットマイル。今回、取材に応じてくれたのは創業者にして取締役会長の畑野仁さん。じつは日本で初めて共通ポイントプログラムを作った、インターネットポイントの生みの親ともいえる人物です。となれば、どうしたってこのビジネスモデルの黎明期、揺籃期のことが聞きたくなるもの。そこで「インターネットポイント誕生秘話」を中心に、いつもの各社取材とはいささか毛色の違うお話しを語っていただきました。
<ネットマイルが提供するポイントサイト>
ネットマイルは、種類の違うポイントをひとつにまとめて交換できるポイントサイト。200種類以上の交換先が用意されている。
【畑野 仁さんプロフィール】
株式会社ネットマイル
Founder & 取締役会長
畑野 仁さん
1964年埼玉県生まれ。学習院大学経済学部卒業後、マツダ株式会社に入社。ロードスターの商品企画、国内販売のマーケティング戦略の立案などを担当。マツダ退社後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科にてMBA取得。日本コカ・コーラ株式会社入社。ブランドマーケティング、ブランドプロモーションを担当。2000年 株式会社ネットエイジ(現・ユナイテッド株式会社)入社。アントレプレナーとして、ネットマイル社のビジネスモデルを立案。2000年11月 株式会社ネットマイル創業。三井物産と共同で事業を運営、日本最大の共通ポイントサービス会社に育てる。日本IT大賞受賞。2015年9月 株式会社INMホールディングス代表取締役会長就任。2015年9月株式会社ネットマイル取締役就任。趣味はトライアスロン。
【株式会社ネットマイル概要】
株式会社ネットマイル
2000年設立
代表取締役CEO:坂井 光
従業員数:40名
インターネット市場におけるユニバーサルポイントプログラム「ネットマイル」のサービスを運営
ネットマイル
https://www.netmile.co.jp/ctrl/user/index.do
――畑野さんは株式会社ネットマイルの創業者になるわけですね?
畑野 会社では会長という立場なので、あまり仕事はしていません(笑)。軽く自己紹介しますと、そもそもインターネットの共通ポイントプログラムを日本で最初に始めたのは僕なんですね。
――そうなんですか?
畑野 “共通ポイントプログラム”は僕が作った名称です。このビジネスモデルを研究し始めたのが1999年の末ぐらい。翌2000年の11月にネットマイルを立ち上げました。当時、周囲からはバカだと言われたものです。なにしろ、Tポイントもなければポンタもない。楽天スーパーポイントもまだない時代です。インターネットも出始めたばかりだったので、ネット上にポイントを貯めるなんて誰も想像がつかなかったんですね。
――畑野さんだけが発想できたわけですね。なぜ、そんな発想ができたのでしょう?
畑野 僕は若い頃、慶応大学のビジネススクールでMBAを取得したのですが、この時の指導教授が千本倖生さん。後に通信会社のイー・アクセスやイー・モバイルを創業する有名人ですが、当時は慶應義塾大学大学院経営管理研究科の教授だったんですね。この人からインターネットやモバイル通信の話をたくさん聞いて非常に影響を受けました。僕がIT業界に足を踏み入れたきっかけですね。
――すごい方が指導教授をされていたんですね。
畑野 もっとも、すぐには起業しませんでした。奨学金をもらっていたので、これを返済しなければならなかったからです。そこで当時、最も給料が良かった日本コカ・コーラに入社したわけです。ここでブランドマネージャーを務めながら、3年間で奨学金を完済しました。
――いよいよ起業ですね。
畑野 僕は昔からスティーブ・ジョブズのことを非常にリスペクトしていまして、コンピュータももちろんアップル一筋。彼にまつわる書籍もよく読んでいました。1980年代初めにスティーブ・ジョブズが、当時ペプシコーラの事業担当社長を務めていたジョン・スカリーを口説いてアップルに引き抜くわけですが、この時の口説き文句が有名な「このまま一生黒い砂糖水を売り続けたいのか、それとも私と一緒に世界を変えたいのか」というひと言。僕は日本コカ・コーラで働いていたわけですから、「ああ、この言葉は俺に言っているんだ」と思ったわけです。大きな勘違いですよね(笑)。自分に酔ってしまうのが僕の悪い癖です。でも、本当に彼の言葉がなかったらIT業界に来ることはなかったと思います。
――ジョブズの言葉に背中を押されたわけですね。
畑野 IT業界に来て最初に入ったのが、渋谷区神泉のアパートの一室にオフィスを構えていた「ネットエイジ」という会社でした。ここは起業家を支援するいわゆるインキュベーターで、IT業界で名を馳せた人は皆、ここの出身でした。mixiの笠原健治もそうですし、GREEの田中良和もそう。ポイント業界でいえば、VOYAGE GROUPの宇佐美進典もそうです。漫画界でいうところのトキワ荘みたいなものですね。私もここで「ネットマイル」を起業しました。
――なるほど。そのタイミングでポイントプログラムのアイデアを思いつくわけですか?
畑野 せっかくIT業界に来たのだから、漠然とデカいことをやりたいと考えていました。デカいこととは何か? 振り切って考えれば、これは国家を建設することだろうと。もっとも、リアルの世界で今さら国家などつくりようがありません。でも、インターネットの世界ならどうだろう? そこで国家の条件を考えてみました。たとえば、領土がある。国民がいる。そうした条件のひとつに通貨発行権があると。
――なるほど。
畑野 今はユーロがあるので事情が変わりましたが、ユーロ登場以前だった当時、自国の通貨を発行できるというのが国家の条件のひとつでした。だったら、ネット上で通貨を発行してしまえばいい――そう考えて調べたところ、日本にはポイントという位置づけが曖昧なモノがあることが分かりました。ポイントは通貨と同じようなもの。ポイントが発行できれば、国家とほぼ同じことになると考えたわけです。
――壮大な話ですね。でも、それがポイントプログラム着想のきっかけになったのですね。
畑野 どこでも使える通貨を発行しよう。それを「共通ポイント」と名付けよう。そのような発想を発端に会社を起こしたわけですね。
――当然、今のようなアフィリエイトの仕組みなどない時代ですね。
畑野 影も形もありません。僕らはどう考えたか? 僕らの通貨を認めてくれる国と貿易をすれば良いと考えました。簡単にいえば、直取りです。取引を機械的に処理してくれるアフィリエイトプログラムのようなシステムがない以上、自分たちで直接営業するしかありません。ちなみに、第1号クライアントは、DeNAさんでした。そんなこんなで2001年4月にローンチするわけですが、その頃には約30社のクライアントが集まっていました。
――凄いですね。クライアントさんは、ポイントがどういうものか理解されていたのでしょうか?
畑野 最初は理解されませんでした。自社で独自通貨を発行するなどという話、誰も信じません。それから問題だったのがポイントに対して信頼性も担保しなければいけないこと。通貨に信頼性以上に大事なものはありません。では、どうしたら信頼性が担保できるか? 一時期は「金」を買おうかとも考えました。
――金ですか?
畑野 日本の管理通貨制度を担保しているのは、日銀の金庫にある金ですから。アメリカのドルが強いのも、ニューヨークの連邦準備銀行に金が保管されているから。だったら、僕らも金の延べ棒でも購入して、その写真をホームページにアップしようかとか。そんなことまで考えましたね。
――想像させられますね。
畑野 でも、金は無理だろう。それでも信頼性は何とか担保しなければいけないと考えた時、日本で一番信頼できるのは国だと。でも、国に担保してもらうのは難しい。だったら、企業はどうか? 国以外で一番信頼できる企業はどこだろう? そう考えました。結論は三井、三菱、住友といった元財閥系の企業。そうした大企業がバックについてくれれば、それがポイントの信頼性になる。
――確かにそうですね。
畑野 そこでローンチの半年前、2000年の10月ぐらいからそうした企業を訪れ、プレゼンをしまくりました。その結果、三井物産がお金を出してくれることになったのです。ローンチ前月の3月に増資を行うことができ、弊社は三井物産の子会社としてスタートを切ることができました。三井物産の名前を使えたのは、信頼性の面から大きかったと思います。三井物産の子会社である「ネットマイル」が発行する共通ポイントなのだから、三井物産が担保していると言えなくもないじゃないですか。それで30社のクライアントを集めてスタートしたわけですね。
――30社のクライアントさんは、共通ポイントのどこにメリットを感じたと思いますか?
畑野 御社がユーザーに対して、何かインセンティブとなるような特典を与えたいという時、その特典がリアルな物だと購入資金が必要になるし送料もかかる。ポイントを付与するだけだったら、ネット上でやり取りするだけ。こんなに便利なものは他にないでしょう? 当時はそのようにプレゼンしました。今とはプレゼンの仕方が全く違います。
――そのプレゼンに対して「それは確かに便利そうだね」という反応だったわけですね。
畑野 今でいえば「ビットコイン」をプレゼンするような感覚だったかもしれません。実態はよく分からないけど、何か凄く可能性がありそうだ! そのような雰囲気でした。そのプレゼンに賛同してくれたのが30社だったということですね。共通ポイントプログラムはそうやって始まったわけです。
――そんな畑野さんの目に現状のインターネットポイントサービスはどう映っているのでしょう?
畑野 僕は国を建設しようと思って会社を設立したわけです。現在のポイントサービスには、小さく纏まってしまった感が強いかもしれません。
インターネット共通ポイントプログラムのアイデアを思いついた当時のことを語る畑野さん。
――プライベートのことについても少しお聞かせください。現在、趣味はお持ちですか?
畑野 どこでも自転車に乗って出かけています。まだ始めて1年ちょっとなんですが、周りの連中が皆、トライアスロンをやっているんですね。僕の周りの友達が僕にこう言ったんですね。「畑野、人間は2種類しかいないんだ。トライアスリートか、そうじゃないヤツか」。それを聞いてトライアスロンを始めたわけです。すると、その友達がまたこう言ってきたわけです。「畑野、人間は2種類しかいないんだよね。知ってる?」。「知ってるよ。おまえが言っていたじゃないか。トライアスリートか、そうじゃないヤツかだろ?」。「違うよ。アイアンマンか、そうじゃないヤツかだよ」。……上には上があったんですね(笑)。
――面白いご友人ですね(笑)
畑野 アイアンマンになると4km泳いで、180km自転車を漕いで、42.195km走るわけです。真夏のクソ暑い中を。17時間全力を尽くさなければいけないわけです。そんなのをやっているヤツと夜、一緒におネエちゃんがいるような店に飲みに行くと、やたらとモテたりするわけです。それを見てだんだんムカついて、アイアンマンやろうかとなるわけです。トライアスロン始めた理由はそんなところですね(笑)。
――そんなにモテるんですか?
畑野 実際はまったくモテなくなります(笑) とにかく連日練習ばかりなので、デートする暇もありませんから。まあ、モテなくはなるのですが、その代わりに人脈はめちゃくちゃ広がりますね。友達が本当に増えますね。そこだけは本当にいいなと思います。
――そうなんですね。
畑野 皆、社長ばかり。社長じゃなければ医者か弁護士。本当に色々な人と友達になりました。異業種交流じゃないけれど、出会えないような人とたくさん出会えて楽しいですね。しかも皆、アスリートなので気持ちの良いヤツしかいない。
――なるほど。
畑野 自分に厳しくいますからね。経営者は皆そうだと思いますが、自分を追い込むんですよ。トライアスロンは本当にキツイですからね。それに経営とまったく一緒で、練習した分しか結果が出ない。運も何もない。練習した成果しか出ない。それがまた面白いんですね。とりわけ3種目あるのがいいんですよ。泳ぎが苦手でも走るのが得意だったり、走るのが苦手でも自転車が得意だったり、誰もが何かしらでカバーできる。これがいいんですよ。
社内の様子。受付など、随所に畑野さんの遊び心が見える。
――会社の人たちは畑野さんのことをどう思っているんでしょうね?
畑野 どうなんでしょう……。宇宙人? 僕はスイッチが入ると、集中してやり遂げてしまうので真似できないと思われているんじゃないでしょうか。僕が社長だった頃、社長である自分に限界を感じたことがあります。たとえば、ミーティングをします。その時、じつは僕はすでに答えを持っているわけです。社員の意見に違うだろ、違うだろとだけ言って、僕は答えを言わずにミーティングを終えるわけです。答えが分かったら俺の所に来いよとだけ言い残して。社員は徹夜などして一所懸命考えて、自分なりの答えを持って僕の所に来るわけです。それに対して僕はまたダメ出しをする。そんなことを繰り返していると、社員はどんなに考えても社長には勝てないと思ってしまうんですよ。なぜかというと、僕はスイッチが入ると、とてつもなく集中力が高まり、一気にやり遂げてしまうような人間なんですね。課題があれば、それについて考え抜く。寝ても覚めてもそのことばかり考えているわけですから、社員より詳しくなるのが当たり前なんですね。社員は社長より良い企画案を出せないから絶望感を味わってしまうんですね。それが良くない、自分の限界だと思いましたね。
――なるほど。では、最後の質問です。プライベートではトライアスロンにハマっているとのことでしたが、ビジネスではいかがでしょう? 次はこんなことをやってみたいと思っているようなことはありますか?
畑野 それが今、ないんですね。そのために自分探しをしなければいけないとも思っています。ただ、ひとつ言えるのは、もうネットではないモノをやりたいですね。インターネットはツールとしては素晴らしいものなので、今後も使いますよ。しかし、インターネットポイントサービスは、いわばネットにどっぷりのビジネスじゃないですか。こういうどっぷりなものは、もうやりたくないですね。
――ある意味、リアルな世界を相手にするわけですね。
畑野 それから社会的に意義のあることをやってみたい。これをやると金儲けになるよ、というのは嫌なんです。カッコ良くなくていいんです。こういうサービスを作ってくれたおかげで世の中が便利になったね、そんな風に言われるようなサービスを作りたい。そうした社会的な意義がないとやる気になりませんからね。
――次にどんなことにご興味を持つのか楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
注意:共通ポイントは通貨ではありません。共通ポイントはおまけです。