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インタビューレポート 〜日本広告審査機構〜

ポイントサイトを快適に楽しんでもらうため、

インターネット上の広告・表示における業界団体が果たす役割とは

インタビューレポート 〜日本広告審査機構〜

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インターネットの世界ではさまざまなトラブルが起こります。ポイントサイトが関連するアフィリエイト広告を含め、インターネット上の広告・表示(インターネット広告だけでなく、自社ウェブサイト、通販サイトなどを含む。以下同じ)でも同様です。そこで、民間の広告自主規制機関として長い歴史を持つJARO(公益社団法人日本広告審査機構)にアフィリエイト広告、広くはインターネット上の広告・表示についての見解をお訊きしました。

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【日本広告審査機構(JARO)とは】

公益社団法人「日本広告審査機構」は、「悪い広告をなくし、正しいよい広告を育てたい」との理念のもと、広告主や新聞社、出版社、放送会社、広告会社、広告制作会社などが集って、昭和49年10月に設立された民間の広告自主規制機関である。一般には、名称の英文名であるJapan Advertising Review Organizationの略称「JARO(ジャロ)」で広く知られている。消費者からの苦情や問い合わせをもとに、公平なスタンスで広告を審査し、問題のある場合は広告主へ広告の改善を促している。

今回、対応していただいたのは、以下の皆さまです(本文中、敬称略)。

事務局長 井尻靖彦さん

事務局次長兼審査部長 橘一さん

審査部・消費生活アドバイザー/消費生活コンサルタント 野崎佳奈子さん

総務部・消費生活アドバイザー 今泉尚子さん

◇インターネット上の広告・表示の現在◇

――ポイントサイトに関係するアフィリエイト広告を含め、インターネット広告の急伸ぶりには目を見張るものがあります。となれば、それに伴いJAROに持ち込まれる苦情についてもインターネット広告が大きな割合を占めているのではないか? そのように想像しますが、実態はどうなのでしょう?

今泉:テレビCMに新聞広告、折り込み広告など、私どもの元には各種の媒体についてさまざまな苦情が持ち込まれます。これまで苦情件数で上位を占めていたのは、テレビCMや折り込み広告でしたが、平成17年頃を境にインターネット上の広告・表示の苦情が目に見えて急増しましたね。媒体別の苦情件数では、テレビが今も断トツの1位なのですが、それに次ぐ第2位がインターネットなのです。

――すでにインターネットが第2位になっているんですね?

井尻:それについては、「苦情」の媒体別件数の資料があります。平成28年度の集計でも、第1位はテレビです。テレビコマーシャルをご覧になって苦情をお寄せいただく方が多く、苦情件数は4002件でした。インターネットはそれに次ぐ第2位で、苦情件数は1936件となっています(表1)。

――テレビが突出しているのは想像できますが、インターネットもかなりの数ですね。

井尻:前年度との比較でも、インターネットは他媒体に比べ、右肩上がりに伸び続けています。

今泉:テレビとインターネットでは、苦情内容もかなり異なっています。インターネットの場合は、ストレートに表示や表現に問題のあるケースが多いですね。テレビについてはタレントの好き嫌いなど好みに属するご意見を始め、本当にいろいろな苦情が寄せられます。

井尻:テレビについては年度によって苦情件数に増減がありますが、圧倒的な第1位です。一方、インターネットに関しては増加傾向にあります(表2/表3)。

「苦情」の媒体別件数(平成28年度)

苦情の媒体別件数(H29.5.29)

(表1)出典:平成29年5月29日付「NEWS RELEASE」/公益社団法人日本広告審査機構
※ 対象媒体が複数にまたがる事例があるため、「苦情」の総件数とは一致しない。

「苦情」の媒体別件数(平成25、26年度)

苦情の媒体別件数(H27.5.14)

(表2)出典:平成27年5月14日付「プレスリリース」/公益社団法人日本広告審査機構
※ 対象媒体が複数にまたがる事例があるため、「苦情」の総件数とは一致しない。

「苦情」の媒体別件数(平成26、27年度比較)

苦情の媒体別件数(H28.5.13)

(表3)出典:平成28年5月13日付「NEWS RELEASE」/公益社団法人日本広告審査機構
※ 対象媒体が複数にまたがる事例があるため、「苦情」の総件数とは一致しない。
※ 表1〜表3に関して、平成27年度から「オンラインご意見箱」の件数を加算したため全体件数が増加している。

井尻:インターネットについては通販――とくに健康食品と化粧品関係に苦情が集中しています。痩せるとかシワが消えるとか、法令に触れるおそれのある広告・表示が多いですね。

――雑誌、新聞といった紙媒体では表示できないような内容が、インターネットではまだ、許されてしまってということですか?

井尻:新聞や出版だけでなく、テレビ・ラジオ局にも広告考査などの手続きがあります。インターネットに関しては同様にチェックを受けているものもありますが、そうでないものが少なくありません。たとえば、自社の通販サイトやホームページに表示される広告や表示、あるいはSNSを使った広告・表示などです。きちんとした媒体のチェックを受けず、自社の基準だけで大丈夫だと判断してしまい、問題になるケースが見受けられます。

――なるほど。インターネットにアクセスするデバイスがPCからスマートフォンへと移行しつつあるなかで、誰でも簡単に情報を発信できる時代ですからね。こうした事案が今後ますます増えていくことも予想されますね。

井尻:JAROでは苦情対象となった広告主に対し、「見解」を発信して広告の適正化を促していますが、発信した「見解」の件数を見ても、媒体別では「インターネット」が6年連続で第1位です。ちなみに、商品・サービス別では「健康食品」が4年連続の第1位。次いで第2位は「化粧品」となっています。

――化粧品はやはり大手メーカー以外ということになりますか?

井尻:大手が絡むこともありますが、業界団体などに所属していない中小の事業者が目立ちます。

野崎:SNS上のインフィード広告をきっかけにトラブルに遭われる方も少なくないようです。

井尻:インフィード広告は、ほとんどの場合、それを利用している個人に最適化されているターゲティング広告なので、利用者間で問題が共有されにくいということが言えます。要するに、同じSNSを利用していても、Aさんに表示される広告と、Bさんに表示される広告が違うということです。なので、Aさんが「あの広告は酷いよね」と訴えても、BさんのSNSにはその広告が表示されないので、ピンと来ないというケースが増えています。

 

◇今後、問題視されそうな事案とは?◇

――苦情件数の多い広告についてお話を伺いましたが、件数はまだそれほど多くないけれど、特に目を引くような事案はありますか?

野崎:健康食品の広告は、薬機法と健康増進法、景品表示法に照らし合わせながらみていきますが、それらの法令をうまくすり抜けるような広告手法や表示をどう考えるか。むずかしい問題です。

井尻:商品広告ではうたえない効能や効果について、研究広告と隣接させている事例などがあります。成分名と商品名が同じだったり似たものだったりすると、消費者は両者を頭の中で結びつけてしまうことが想定され、消費者庁からも問題となりうると判断されることが想定されます。

野崎:その他の事案としては、28年度上期をピークとしてJAROに多く寄せられたのが定期購入の問題です。お試しでとても気軽に試せるかに思わせて、じつは何回か購入するのが条件になっているのですが、以前扱ったものには、クリックするとその契約内容のページをスキップしてしまうような悪質な作りのサイトもありました。

橘:定期購入に関していえば、国民生活センターも何度か啓発のコメントを出しています。

――具体的にはどういった商品が多いのですか?

今泉:目立つのは健康食品です。たとえば、500円で購入できるというようなインフィード広告がSNSに流れてきて、クリックして続きを見ていくと、この契約は何回コースですよと確かに表示されてはいるのですが、それが非常に小さな字だったりして。いずれにしろ、500円という安さばかりに目がいってしまい、その他の細かなところまでは気が回らないという消費者が大半。気が付けば次の月にも商品が届いて、1万円請求された。そんな事案がここ1~2年目立っていますね。

野崎:健康食品以外では、育毛剤でも同様の事案がありましたし、ここ数年でいろいろなジャンルにおいて定期購入の手法に関する苦情が多く寄せられました。

 

◇業界の健全化と業界団体が果たす役割について◇

 

――消費者がそうしたトラブルに巻き込まれないようにするには、どうしたらよいとお考えですか? 特にポイントサイト関連のトラブルについてご意見をお聞かせください。

野崎:2年ほど前のことになりますが、JAROに持ち込まれたポイントサイト関連の案件としては、有料アプリのダウンロードであたかも5万ポイントが必ず貰えると誤認させるようなキャンペーンがありました。実際は有料アプリをダウンロードしても1口応募できるだけで、抽選に当選しなければポイントは貰えないという内容でした。

橘:景品表示法は「自己の供給する商品又は役務の取引」について不当表示を禁止していますが、ポイントサイトはアフィリエイターであって、自己の商品や役務を供給しているわけではありません。それゆえに同法の規制対象にならないのが実情です。

井尻:そのことを踏まえた上で、消費者の皆さんに忘れていただきたくないのは、「うまい話には裏があるので、契約内容を必ず確認しましょう」ということです。

野崎:「大量ポイントが必ず貰える」というような謳い文句があったら、オカシイ、変だとまずは疑ってみるべきでしょうね。

――確かにそうですね。ただ、大人はそう判断できても、たとえば中学生あたりだと単純にラッキーだと受け取ってしまうかもしれませんね。

野崎:社会経験が浅いとそう捉えてしまう危険性はありますね。JAROでは消費者向けの講座や学生むけの講義なども行っていますが、消費者のリテラシーを向上させることも重要だと思っています。ポイントサイトを運営している企業や代表者の情報がきちんと掲載されているか否かも、ポイントサイトの信頼性を判断する目安になると思います。というのも、怪しいポイントサイトは得てして、それらの情報が見つかりにくいように細工されていたり、なかったりするからです。

今泉:最近は国民生活センターにもインターネット関連のトラブルや被害報告が寄せられており、それを受けて積極的に注意喚起を行うようになっています。何かあれば地元の消費生活センターも対応してくれるはずです。

――我々JIPCもそうですが、各業界でさまざまな業界団体が存在します。業界の健全化という視点から見た場合、そうした業界団体が果たす役割をどう評価されていますか?

井尻:役割は大きいと思います。JAROでは公正競争規約を設けている食品・非食品の公正取引協議会と年に一度、情報を共有する協議会を実施しています。さらに、自主規制を設けている民間の団体との情報連絡会を通じて情報交換をしています。その他、さまざまな業界団体と連携する中で、たとえばインターネット系の情報が不足しているとなれば、JIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)にお願いして、情報連絡会の場で講演していただくというような活動も行っています。JAROからも新たな法令・規約・ガイドラインなどの情報提供や行政の動向、今後注意すべき事案などを共有会議の場などでお伝えしています。

――そうなんですね。

井尻:その中で感じるのは、多くの業界の皆さんが抱えている課題が同じだということです。それは、業界団体内の会員社はルールの順守に努めているけれども、非会員社はそうではないところも多い。そうした事業者を何とかできないだろうか? それが各団体に共通する課題です。団体に所属する会員各社が一丸となってフェアプレイを広めていきながら、そうでない悪質な事業者に注意を促す努力がベースになるでしょう。厳しく規制していく方法だけでは自由な商業活動を妨げることにもなりかねないので、業界団体が率先して消費者視点、生活者視点に立ちながら、ルールを尊重しフェアプレイに努めていくこと、さらに消費者を啓発していくことが必要なのだと考えます。

橘:ルールを知らない事業者に対して、ルールを啓発していく役割を業界団体が担っているという言い方もできるでしょう。JAROも過去には「どうすればガイドラインが作れるのでしょうか?」といったご相談を持ちかけられ、お手伝いさせていただいたことがあります。

今泉:新規に参入した事業者などは特に、業界団体がないと誰に相談したらよいか分かりませんからね。JIPCさんのような団体があれば、まずはそこに相談してみようと思うのが自然でしょう。加えて、一般消費者向けに啓発活動をされている業界団体も多いので、その意味でも役割は大きいと思います。

井尻:一部の悪質な事業者のせいであっても消費者が騙されたと感じてしまうことは、業界全体にとってマイナスです。業界団体の方には業界の発展のためにも消費者視点を持って、たとえ強制力はなくても、広告表現などについてガイドライン等を設けて、適正な広告・表示に向けてリーダーシップを取っていただけたらと思います。

――我々もいろいろな媒体を使いながら、消費者に対してポイントサイトがどういうサービスなのか、これまで以上に分かりやすく伝えていくことが必要ですね。本日はどうもありがとうございました。